ダークパターン——気づかせない設計
TL;DR
- ダークパターンは、利用者の意図に反する選択へ誘導する設計手法の総称。
- ハリー・ブリヌルが2010年に名づけ、その後の大規模調査で広く存在することが示された。
- 「分かりやすい設計」と「気づかせない設計」は、同じ心理の知識を逆向きに使う。
- 違いは技術ではなく、誰の利益のために注意を操作するかにある。
解約ボタンが灰色で小さく、継続ボタンが大きく目立つ。同意のチェックがあらかじめ入っている。無料登録のつもりが、いつの間にか有料の自動更新に切り替わっている。こうした、利用者を望まない選択へ静かに押しやる設計を、ダークパターン(deceptive design とも呼ばれる)という。
名づけと検証
この言葉は、ユーザー体験設計者のハリー・ブリヌルが2010年に提唱した。彼は欺瞞的な設計手法を類型化し、公開のカタログとして整理した。当初は業界内の警告に近かったが、その後、学術的な検証が加わる。アルナーブ・マトゥールらによるプリンストン大学のショッピングサイト調査(2019年)は、ダークパターンが一部の悪質な例外ではなく、広範に存在することを示した。
重要なのは、これらの手法が特別な技術ではない点だ。デフォルト効果、損失回避、視覚的な目立ち方——使われているのは、設計の教科書にも載る人間の心理である。シグニファイアの知識も、注意の偏りの知識も、向きを変えれば操作の道具になる。
同じ知識の表と裏
ここで、二つの設計を並べてみたい。一方は「分かりやすい設計」。利用者が何をでき、何が起きるかを正しく予測できるよう、合図を整える。もう一方は「気づかせない設計」。利用者に不利な情報を視界の縁へ追いやり、有利な選択肢だけを中心に置く。
両者が使う心理学の知識は、ほとんど同じだ。違うのは向きである。前者は利用者の予測能力を助け、後者はそれを妨げる。排除のデザインが街で意図を周辺視野に隠したように、ダークパターンは画面上で不都合を周辺へ押しやる。手口の構造が似ているのは偶然ではない。
境界はどこにあるか
もっとも、両者の境界は常に明快ではない。重要なボタンを目立たせること自体は、ダークパターンではない。むしろ良い設計の一部だ。問題が生じるのは、その「目立たせ」が、利用者の利益と設計者の利益が対立する場面で、後者に偏って使われるときである。
ただし、意図を外から証明するのは難しい。だからこそ、技術や手口の有無ではなく、結果として「誰の予測能力が削がれたか」で判断するほうが実践的だ。利用者が自分の選択を正しく理解できないなら、その設計は——意図がどうあれ——欺瞞の側に近づいている。裏を返せば、良い設計とは、利用者と設計者の利益が食い違う場面でこそ、利用者が事態を正しく見通せるように合図を保つことだ。注意を操作する力は、向きによって設計にも詐術にもなる。問われるのは技術ではなく、その向きである。
参考・出典
- Brignull, H. (2010–). “Deceptive Design / Dark Patterns.” deceptive.design.
- Mathur, A. et al. (2019). “Dark Patterns at Scale: Findings from a Crawl of 11K Shopping Websites.” Proceedings of the ACM on Human-Computer Interaction.